前回、スイスがなぜグローバルイノベーション指数で11年連続1位か、その背景の一部を紹介しました。日本は13位です。今回は、実際に私が国内外の新規事業やイノベーションに取り組む方々と多くのミーティングを実施した結果から、日本がよりイノベーティブになるためのポイントを提言したいと思います。
毎月30社以上の国内外大手企業の新規事業やイノベーションの担当者と、各社の課題や展望について意見を交わしています。一番多い質問は「競合他社はどうイノベーションに取り組んでいるのか、実際どのように他社と提携しているか」というケーススタディです。他社の事例を知る機会がほとんどないのです。
当社のスイス支社が、欧州の大手企業のイノベーション担当者に取り組みの成功事例や失敗事例、課題などを聞き取りしたいと依頼すると、大半の企業は喜んで回答してくれます。事例をウェブや動画で日本企業にシェアしてもよいかと尋ねると「ぜひ」と答えが返ってきます。
理由を尋ねると「自分の経験が他社や他国の役に立ち、エコシステムをグローバルに活性化できるなら、うれしいことだ」といいます。そこに会社の承認や校閲は必要ありません。彼らは独自の裁量を持ち、積極的にグローバルエコシステムに貢献することが自分たちの発展にもつながる、という考え方なのです。
一方、日本の大手企業でイノベーション担当者に成功事例や失敗事例、課題を外部にシェアさせてほしいと依頼すると必ず会社の了承が必要です。メリットを提示して、記事や動画の内容が会社の厳しいチェックをパスしなければならず、フレッシュではなく加工された、エッジがきかない事例となってしまいます。この背景には企業ブランドの維持はもちろん、外部に会社の失敗事例を出したくない、競合他社と比較されたくないなどの考えがあるようです。これも十分理解できます。
しかし今、世界中の企業がオープンイノベーションに舵を切っている理由は、大企業でも一社だけのイノベーションではVUCA(ブーカ=変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代を生き残ることができないという危機感があるからです。
そして互いに協力しあうため、まず自社がエコシステムに貢献すべき、というのが当たり前の考え方になってきています。こうした「少しでも誰かの役に立つ」という貢献の精神こそ、本来の日本企業が持つイノベーションへの第一歩でしょう。
企業はイノベーション担当者に権限委譲し、各自の裁量でアクションできるように社内体制を変えることも重要です。最低限のルールだけを決め、担当者に権限と予算を与え、チャレンジを応援し、失敗が起こったときに会社がリカバリーするという体制は、VUCAの時代の人材育成として重要です。
日本は品質維持のため、決裁ルールや稟議制度が確立されています。会社や社員を守るのに必要なルールですが、もろ刃にもなります。先行き不透明な時代をトライ&エラーし、アジャイルに推進できる人材を早期育成するには足かせです。
日本企業がさらにイノベーティブとなるため、まず担当者が独自裁量でエコシステムへ積極的に貢献することを促進してみましょう。そこには思ってもみなかった化学反応が潜んでいる可能性が十分あります。
ウズベキスタン出身。サマルカンド国立外国語大学で英語・日本語言語学を修了。人材開発コンサルのSOPHYS(ソフィス)とグローバル事業開発支援のTrusted(トラスティッド)を東京で設立。
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