日本でも多くの企業がオープンイノベーション(OI)を導入するようになりました。グローバル競争が激しくなる中で優位性を確保するため、社内リソースを有効に活用しつつ、新たな技術とノウハウを外部から取り入れるOIは企業戦略に欠かせない取り組みでしょう。
しかしOIの人事戦略には課題が多く、思うような人材を任命できていないのが実情です。以下、弊社が国内外約100社余りについてOIの事例を考察した結果の一部を共有します。
OIの人材配置では、技術スペシャリスト、マーケティングスペシャリスト、アントレプレナー、マネジメントの4種の人材を組み合わせることが妥当といわれます。そこに内部・外部という2つのレイヤーも加味します。
人材構成は企業の目的により異なりますが、既存事業の将来性が危ぶまれ、ドラスチックに新規事業を推進すべき場合は外部アントレプレナー、外部技術スペシャリストを多く盛り込むことで成功に結びつくケースが多い。一方で既存事業の延長や拡大、競合との差異化を進める場合は、内部の技術スペシャリスト、内外のマーケティングスペシャリストを重視するとよいといわれます。
ただ、OIの目的に合う優秀な人材は多忙で、簡単に配置転換できないことがほとんどです。日本企業はOIを小規模で始め、段階的に拡大するのに対し、海外企業は最初から予算を打ち出し、明確なビジョンに沿ってスタートしているケースが多い。OIの成否でカギとなる「全員を巻き込めているか」という点を、海外企業は押さえているのです。
日本でも革新的な企業は数万人におよぶ全社員をOIのムーブメントに巻き込めていますが、多くはOIが専属チームや事業開発チームだけのものになってしまっています。全社アイデア募集のビジネスコンテストなどを開催しても、年に数回で人事評価に積極的に反映する仕組みもなく、卓越したアイデアが生まれにくい状況に陥っています。
既存業務で多忙なメンバーや現場で顧客コミュニケーションをとっているセールスチームの日々の感覚こそ企業がブレークスルーするヒントにつながるのに、彼らの意見を吸い上げられないことは大きな損失です。また、先入観のない新卒のフレッシュな感覚も同様に重要です。
そこで私が提言したいのは、日々の業務で「全社員」が思いつく小さなアイデアを取りこぼさない工夫や仕組みを実行していただきたい、ということです。ある海外企業では、全社員1日1時間は必ずOIのために時間を取らなければならないルールを作り、OIを内部から推し進めて業界をけん引しています。
全員参加にはアプリなどの活用が有効かもしれません。例えば、英会話アプリで1日1回たった5分の練習で、ポイントがたまりランクアップする。
1日ログインしなければ、かわいいキャラクターが「5分だけ時間ある?」と問いかける。押し付けではなく、ゲーム感覚で参加できる仕組みがあれば、全員が自然にOIに参加できるでしょう。
こうした取り組みが各社のOIに必ず合うわけではありませんが、小さな積み重ねが大きなうねりになるのは自明の理です。今一度「日々の全員参加」という視点で自社のOIを検証してはいかがでしょうか。
ウズベキスタン出身。サマルカンド国立外国語大学で英語・日本語言語学を修了。人材開発コンサルのSOPHYS(ソフィス)とグローバル事業開発支援のTrusted(トラスティッド)を東京で設立。
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