前回、新型コロナウイルス禍の下では、大手企業が中心となって取引関係のある中小企業やスタートアップとコミュニティーを構成し、協業体制を維持することが望ましいと書きました。
その後、私は新型コロナが企業の事業開発に与える影響を調べるため、国内の大手企業(資本金500億円超、または自社を含む企業グループの従業員数1万人超)の事業開発部門にインタビューを実施しました。期間は4月28日~5月22日で、政府の緊急事態宣言中に当たります。
メーカー、銀行、保険、IT(情報技術)サービス、不動産などの9社による回答の一部を紹介しましょう。「コロナ禍が自社の事業開発活動のミッションに影響するか」との質問には、影響はない(5社)、むしろ好機である(1社)、すでにマイナスの効果が生じている(1社)、まだ明確ではない(2社)との回答でした。
そして9社すべてが、コロナ禍の収束後1、2年間は、人々の価値観や社会環境が変化しても自社に大きな悪影響は及ばないだろうと答えています。業務遂行に遅延はあるものの、現時点では半数以上の企業で中長期の事業開発の計画を変更する動きはありません。
結論付けるのは早計ですが、大手企業の多くは今回のような外部環境の変化に対して、想像以上に強いリスク耐性があるようです。事業開発の目標が明確で、人材などの経営リソースの安定した供給が見込める企業は、競合他社をしのぐ成果を獲得できそうです。
一方で気になる点もあります。ある企業のグローバル事業開発部門では、その分野の実務経験と英語にたけた人材を社外から獲得しようとしていますが、容易に見つけられないというのです。
私が携わる事業開発の支援ビジネスでの経験に照らすと、こうした場合、事業のキーパーソンを社内で育成する方向に転換する手がありそうです。ただ、いつ、どのプロセスについて育成を始めるべきかが分からず、思うような成果を上げられない企業が多いとも感じています。
その要因は、キーパーソンに対してあらゆるプロセスを熟知した網羅性と、高度な専門性を兼ね備えた「万能型人材」の役割を期待しているからかもしれません。
グローバルなビジネス環境や市場の変化のスピードを考えると、業務チームがすべてのプロセスで成功を収めることはとても困難です。
キーパーソンの候補者を育成するには、ニッチな領域の専門的知識を必要とするような個々のタスクには深入りせず、事業開発のプロセス全般に関与させることが効果的だと考えます。新技術に関する専門的な調査分析や、事業開発チームが意思決定を行う際のセカンドオピニオンなどは、社外のスペシャリストを積極的に使えばいい。
キーパーソンの候補者はチームのメンバーと共に、外部協力者を含む利害関係者との協業体制の管理や、雑然としたアイデアを具体的な協業案件にまとめる企画活動、協業相手とのコミュニケーションに力を注ぐべきです。こうした幅広い調整業務に関わることで、職場内訓練(OJT)の経験を積むことができるのです。
新型コロナの影響下でも、事業開発を遂行するためのシステムが有効に機能していれば、企業は社外からの支援を受けながら社内人材の育成に比重を置くことができると考えます。
ウズベキスタン出身。サマルカンド国立外国語大学で英語・日本語言語学を修了。人材開発コンサルのSOPHYS(ソフィス)とグローバル事業開発支援のTrusted(トラスティッド)を東京で設立。
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