働き方改革の一環として、副業や兼業を容認する企業が増えてきました。大手企業の在職者がスタートアップに非正規雇用されたり、プロジェクトベースで経営に参加したりする事例が今後増えるでしょう。
このコラムで触れてきたように、異なる企業文化を背景に持つ人材が他社と効果的な協業を実現させるには、まず双方が価値観の相違を受け入れ、ステレオタイプのイメージを払拭するコミュニケーションを充実させることが必要です。
話し合いでは、業務上の役割と責任について互いが期待している内容の詳細を明示します。具体的なプロセスや意図などはいちいち説明しなくても理解し合えるという姿勢は誤解を生みやすく、組織力を低下させるので避けるべきです。
複数のネットワークビジネスの運営で高い実績を残してきた私の知人の話をしましょう。彼はIT(情報技術)関連の先端的なスタートアップであるA社に請われて、大手企業に籍を置いたまま、非常勤のアドバイザーを務めていました。
彼はA社に期待された通り、自身の豊富な人脈を使って国内外の大手企業のキーパーソンを次々とA社に紹介します。A社のメンバーとのやりとりは主に1日数件のメール。経営者とは月に1、2回会って業界の動向について意見交換していました。
それから半年、彼の人脈から進展した商談はなく、提案は初期の段階で行き詰まります。彼はA社の営業部門の責任者とのメールを通じて、メンバーとの間に心理的な溝が広がり、経営者との関係も悪化し始めていると察しました。自身の貢献が過少評価されていると感じた彼は、しばらくして同社から離れました。
このような状況を招いた原因は、彼と経営者、A社メンバーの間で生じていた見解の不一致を解消するコミュニケーションが不足していたからだと考えます。
彼から聞いた話を前提に推察すると、A社は単に顧客リストが欲しかったわけではなく、それぞれのキーパーソンが見込み客としてどれくらい有望なのかについての評価や、相手企業の実情に応じた売り込み方の助言を求めていたようです。
しかし、当時のA社は人材の出入りが激しく、頻繁に事業戦略も変更していたため、社内でのコンセンサスがとれていませんでした。
彼自身、周囲に気を使って業務範囲を狭めずに、非常勤の立場であってもメンバーと直接対話する機会をできるだけ設けるべきでした。役割と責任についての誤解を埋めることができれば、違った結果になったかもしれません。
これからスタートアップの経営に関わりたいと考えている大手企業の在職者には、次の3点を指摘したいと思います。
(1)自身の専門領域に近い複数分野の横断的な知見を獲得する
(2)勉強会などでスタートアップの経営者の視点に触れる
(3)スキルアップは自己投資で行う
このような人材の増加は大手企業とスタートアップの双方に大きなメリットをもたらします。
大手企業は、守秘義務の契約下で高度な実務や経営スキルを社外で磨く人材を確保でき、スタートアップは非正規雇用の優秀な人材を獲得できます。さらにその人材自身も経済的な利益とスキル、士気を向上させ、起業を含めた複数のキャリアパスを描くことができるようになるでしょう。
ウズベキスタン出身。サマルカンド国立外国語大学で英語・日本語言語学を修了。人材開発コンサルのSOPHYS(ソフィス)とグローバル事業開発支援のTrusted(トラスティッド)を東京で設立。
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