日本企業が外国企業を対象とした買収や提携を通じて海外に進出する場合、国際競争力を高めるのに何が必要か。ソニーや複数の大手IT系企業で様々な企業買収や資本提携案件を手掛けた日本NCRの内藤真社長へのインタビューをもとに、企業と人材のマインドセット(考え方の枠組み)の視点から探ります。
――日本企業の海外進出に必要な企業のマインドセットとは何ですか。 「『社会を変える』『人々の生活を向上させる』といった建設的で明確な理念を持っていることがポイントとなる。かつて、海外で成功した日本企業はこれらの理念があった。この点は現在でも変わらない。対照的に国内市場が収縮するために、やむを得ずに進出するという姿勢ではグローバル市場で生き残ることは難しい」
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筆者が知る限り、日本企業との提携を検討する海外の経営者は総じて大きなビジョンを持っています。日本企業も明確なビジョンを持って取り組むことが成功のきっかけになると考えます。
――日本企業の強みとされている「高品質」は有効でしょうか。
「高品質が日本企業の強みとして世界に認知されていることは疑いない。ただ、業界によってアピールポイントは様々だ。例えば、医療、飛行機など人命に関わる製品やサービスを提供する産業にとって、安全性や正確性のアピールが欠かせない。一方、娯楽産業では『人々の生活を楽しくする』といった理念が相対的に重要となる」
「イノベーションを起こすというアピールも効果的だ。そのために積極的なR&D(研究開発)への投資について情報開示すれば、外国企業から高い関心を集めることができる」
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海外にアピールするには、対象地域やグローバル環境で支持される様式にのっとった情報発信が必要だと考えます。最近の日本企業は自社のビジョンや技術を、かわいらしいイラストやアニメーションで説明するケースが増えています。
しかし、海外のビジネスパーソンには真面目な印象を与えない場合があります。経営者のメッセージを発信する動画なども含め、洗練された統一の様式にすべきだと考えます。
――外国企業を対象とした買収や提携案件を任せる人材に必要なマインドセットやビジネススキルとは何ですか。
「コミュニケーションスキルとポジティブシンキング、異文化理解が不可欠。付き合いの長い取引先やブローカーから紹介された情報だけに頼らないことが必要だ」
「例え言葉の壁があっても実際に現地に赴き、優秀な通訳を伴って経営者や現地工場の技術者と直接コミュニケーションを取る。見解が合わなくても文化の違いのせいにせず、当然のことだと受け入れながらリスクを取って行動すべきだ」
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筆者が携わった日本企業の海外進出計画を振り返ると、日本のビジネスパーソンは英語と異文化コミュニケーションへのコンプレックスを含めて、進出リスクを過剰に見積もり、機会利益を失っているように感じます。
外国企業から協業の打診を受けたら、否定的な先入観を捨てて、まずは話を聞いてみるべきだと考えます。日本と海外の企業による、国や業界を越えた協業には多大なイノベーションの可能性があります。
ウズベキスタン出身。サマルカンド国立外国語大学で英語・日本語言語学を修了。人材開発・人事システムコンサルのSOPHYS(ソフィス、東京・千代田)を設立、日本や外資系の企業の人材育成を手掛ける。
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